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深森 薫
人気のない、小さな島の小さな浜辺。
白い砂を、寄せては返す波が洗ってゆく。
波より他に音を立てるもののないこの場所で、榛名とふたりきり、体を寄せ合って沈む夕日を眺めている。
(最高にロマンチック、だよなあ)
心の中で、比叡は独りごちた。
(こんな状況じゃ、なかったら)
こんな状況―――例えば、今の出で立ちが、海戦から離脱したままの完全武装でなければ。
深海棲艦の支配する海域で、孤立無援のふたりきりでなければ。
隣の榛名が、轟沈寸前まで大破してなければ。
鉛色の空、淀んだ空気。
点在する島々の間に、或いは座礁し、或いは沈没した、船の残骸。
南の海、という言葉が持つイメージとはかけ離れた場所を、艦隊は単縦陣で進んでゆく。十数年前に勢力を増した深海棲艦によって制圧されて以来、人の気配の絶えて久しいこの海域を、人類は再びその手に取り戻そうとしていた。
「……さて」
隊列の左翼で、摩耶がぽきぽきと指を鳴らす。
「そろそろ、だな」
「そうですね。利根さん、前方に索敵機をお願いします」
旗艦の比叡にそう乞われ、利根はうむ、と短く答えて頷いた。ほどなくして、カタパルトから水上機が放たれる。
比叡以下、榛名・摩耶・利根・五十鈴・初月から成る水上打撃部隊。その任務は、別の水上打撃部隊とローテーションを組んでこの海域に反復出撃し、深海勢力の漸減をはかること。
「敵艦隊発見じゃ」
「うぇっ!? 早っ!」
「相変わらず流石ですね、利根」
摩耶と榛名の、驚きと賞賛の声を聞き流し、利根は報告を続ける。
「大物は、空母ヲ級が二、ヌ級が三、戦艦ル級が三。あとは重巡がちらほら、軽巡・駆逐が多数」
「概ね予想通り、ってとこね」
首をこきこきと鳴らしながら、五十鈴。
「……お。奴さん、やっとこちらに気付いたぞ。敵艦隊ならびに敵艦載機、こちらへ向かって接近を開始じゃ」
遙か遠くを見つめながら、利根。『見ながら』といっても、実際に自分の視覚で見ているわけではない。水上機から送られてくる『視覚』情報を『感知』しているのである。その辺りの詳細なメカニズムは、まだ解明されていないが。
「敵爆撃機を目視で確認!」
「全艦回頭、回避運動開始!」
比叡の号令一下、全員が旋回する。
「任せろ!」
初月が弾幕を張った。敵の爆撃機が、火を噴いて落ちてゆく。残った機体も弾幕に視界を遮られ、見当違いな場所に爆弾を落として艦隊の周囲に幾つも水柱を作った。
「やるじゃん、僕っこ」
ひゅう、と摩耶が口笛を鳴らす。
「……初月、だから」
そろそろ名前覚えてくれないかな、と駆逐艦娘がボヤいた。
「第二波、来るぞ!」
「まっかせて!」
五十鈴が気を吐く。お手本のような対空射撃で、ことごとく撃墜される敵機。
まもなく、敵艦隊が射程距離に入る。
それは、敵にとっても同じこと。
「砲雷撃戦、用意!」
比叡の号令で、全員が主砲の安全装置を解き、
「―――撃て!」
轟音とともに、比叡自身と榛名、摩耶、利根の主砲が一斉に火を噴く。
ほぼ同時に、遙か彼方、敵艦影の中で幾つもの小さな光が明滅する。
「回避!」
次々に上がる巨大な水柱。
「着弾―――リ級の轟沈一、ヌ級の大破一を確認!」
「当方の被害報告お願いします!」
「敵爆撃機接近、迎撃します!」
「続いて砲撃用意!」
「! ソナーに感、三時の方向!」
飛び交う砲弾、交錯する通信。
「皆、雷撃に注意―――初月、上を暫くお願い!」
五十鈴が走った。
「このっ……!」
水柱の間を掻いくぐり、水面に爆雷を投げ込む。
どっ……!
「うわっ!」
水中から鈍い音が響くのとほぼ同時に、比叡の声。
「お姉さま!」
五十鈴が潜水艦を落とすより先に放たれた魚雷が、比叡の足を止めた。
砲撃戦は続く。
「まずい!」
旗艦めがけ、飛び来る砲弾。
「お姉さま!」
響く轟音。
弾丸が水面に潜る音とも、それらが水中で爆ぜる音とも違うそれは、熱量を伴い、形あるものが破壊される音。
「! 榛名ぁっ!」
「僕っこ!」
比叡の前で、二人が崩折れた。
「榛名!」
「……榛名、は。大丈夫、です」
駆け寄った比叡に、榛名は息絶え絶えに答えた。右舷側の艤装が飴のようにぐにゃりと曲がり、白い腕は赤黒く焼け爛れている。
「ばっ! おま! 何で!」
初月を抱き上げながら、摩耶が怒鳴った。駆逐艦の艤装は、殆ど原形をとどめていない。
「……旗艦を、守るのが。随伴のつとめ……」
「馬鹿っ! 守るっても他にやり方あんだろこのクソバカ!」
「意見具申! 比叡、撤退命令じゃ!」
「……! 全艦、回頭!」
利根の声で比叡は少し冷静さを取り戻し、そう号令をかけると、榛名を肩で支えながら立ち上がらせた。右舷側の水没具合に合わせ、反対側に注水させる。
「全速前進、撤退!」
号令一下、全員が全速力で撤退を始める。
榛名を担いだ、比叡を除いて。
「! 何で―――」
速度が、上がらない。
いくら榛名を曳航しているとはいえ、もっとスピードがあってもいい筈だ。主機は問題なく動いているところをみると、どうやら問題は足元の推進機にあるらしい。先刻受けた雷撃の、当たりどころが悪かったようだ。
「比叡、急げ! 敵さんが追ってくるぞ!」
人類にとって幸いなことに、深海棲艦はあまり足が速くない。たとえ追撃されても、振り切って逃げることは十分可能である―――全速航行さえできれば。
「……全艦に告ぐ」
比叡は腹を括った。
「今この時をもって、利根さんを旗艦代理に任命します。皆、先に撤退してください」
「比叡! 何を―――」
「推進機をやられました。これ以上、速度が上がりません」
淡々と、比叡は答える。
「私は、榛名を連れて別行動で離脱します」
「はぁっ!? 何いってんの!」
「ちょ、比叡! お前何考えてんだ!」
通信機越しに飛び交う怒号。
「どいつもこいつも馬鹿ばっかかよこの艦隊!」
「比叡よ。諦めるのはちと早くはないか」
「諦めてなど、いません」
利根の問いに答える、比叡の声は至って冷静だった。
「勿論。生き延びるために、最大限の努力をするつもりです」
「……わかった」
利根も腹を括った。
「必ず迎えに来る。いい子で待っておれ!」
「ちょ!? おい利根! あんたまで何考えて―――」
「やかましい! 吾輩が旗艦代理じゃ! 全速力で撤退する、缶が火を噴いても付いてこい!」
そうして撤退してゆく仲間達の背を見送って、比叡もまた榛名を連れて戦線を離脱した。
―――陽が、沈む。
「……お姉さま」
か細い榛名の呼びかけに、思索から我に返った比叡はうん、と短い答えを返した。
「申し訳、ありません」
「榛名は、悪くないよ」
―――責められるべきは、旗艦の私だ。
続きの言葉はぐっと飲み込んで、比叡は榛名の目元に滲んだ涙を唇で拭った。
この付近に巣くう深海勢力の主力は空母と飛行個体。夜の帳が降りれば、陰鬱な闇の訪れが、今は有り難かった。
*
朝が来て、比叡は目を覚ました。朝といっても、空が闇色から土砂降りの雨の日のような鉛色に変わる、というだけのものだが。
「!」
ふと気配を感じて見上げた空に不気味な燐光を見つけ、比叡の背筋が凍り付く。敵の索敵機だ。
「くっ!」
咄嗟に機銃で狙い撃つが、爆弾や魚雷を積んだ機体よりも遙かに身軽なそれは、滑るように弧を描き、沖へ向かって飛び去っていった。
「しまった……!」
万事、休す。
こんな場所に艦娘が二人、孤立無援の状態でいることを知られてしまった以上、敵の攻撃部隊がやって来るのは時間の問題だ。艦砲射撃か、航空爆撃か、あるいはその両方か。何にせよ、大軍勢によってたかって嬲り殺しにされるのには違いない。
「……仕方ない」
比叡は、覚悟を決めた。
立ち上がり、波打ち際のその先へと歩み出る。少しでも燃料を使わずに済むよう、艤装の浮力は切ったまま、足で砂地を踏みしめた。
「お姉さま」
不意に、榛名の呼ぶ声がして。
「榛名も、戦います」
比叡が振り向くと、彼女はのろのろと、けれど自分ひとりの力で、立ち上がった。
「戦わせて、ください。お姉さまの、お側で」
そして、半分潰れた艤装を背負い、儘ならなぬ体を引き摺るようにして、一歩一歩、砂浜を歩み寄る。
駄目だ、と言いかけて、比叡は言葉を飲み込んだ。
「…………いいよ」
榛名は自分の大事なひとである前に、ひとりの戦艦娘だ。誰かに守られながら何もせず、ただ敵に好きなようにされて滅びるなど、戦艦としての矜持が許すまい。
それに。
「おいで」
―――どうせ自分も滅びるなら、最期は彼女の側がいい。
人としては至極真っ当な、けれど戦士としては邪な思いを、口には出さず飲み込んで、
「一緒に、戦って。一緒に、帰ろう」
比叡は、そっと手を差し伸べた。
どれくらい、待っただろう。
沖を見据える二人の耳に、微かな唸りが聞こえた。雀蜂の群の羽音のようなそれは次第に近くなり、やがて鉛色の空を背景に敵爆撃機の群れが姿を見せる。
「敵爆撃機を目視で確認。迎撃態勢」
比叡はそう言って、武装の安全装置を解除した。榛名も比叡に支えられながら、残った半分の武装で敵を迎え撃つ態勢を取る。敵機はひとたび目視の範囲に入るとあっという間に接近してきた。
「撃て!」
たった二人の艦隊の『旗艦』比叡の号令一下、はじまる対空射撃。文字通り『牙』を剥いて飛来する敵機が、或いは火を吹いて墜落し、或いは腹に抱えた爆弾ごと中空で爆ぜる。狙いを外した爆弾や墜落した機体が、そこら中で砂混じりの水しぶきを上げた。
ひととき、静寂が戻る。
「……流石だね、榛名」
轟沈寸前まで大破し、立っているのがやっとの今、それでも完璧な対空砲撃で数多の敵機を撃ち落としてのけた妹に、比叡は内心舌を巻いた。
「はいっ……まだ、やれます……っ!」
肩で息をしながら、気丈に答える榛名。
「敵編隊、第二波……」
暗澹としていた比叡の胸の奥に、小さな火が点る。
瀕死の榛名が、これだけ気を吐いているのだ。
「……来ます!」
自分が腑抜けていて、どうする。
「直上!」
―――気合いを入れろ、戦艦・比叡!
「撃て!」
号令に続く、音の洪水。機銃の掃射、敵機が宙で弾ける音、爆弾の破裂、至近弾の爆発。燃えながら落ちる無数の破片が、水面を叩く音。
「第三波!」
数が多い。
撃ち漏らした敵機が、爆弾を抱いて押し寄せる。
「てぇっ!」
再度の斉射。至近距離で破裂する機体と爆弾。比叡は榛名を庇ってその熱と衝撃を一手に受けた。
「お姉様!」
「大丈夫!……第四波、来るよ!」
この程度何でもない、と笑ってみせて、比叡は再び空を睨む。
―――足さえ、あれば。
「第五波!」
比叡は歯噛みした。水上を自由に動くことができれば、金剛型自慢の俊足を封じられていなければ。敵機に後れをとることなどないのに。
「第六波!」
機銃の斉射音が、途中で途切れた。
「! 弾が……!」
砲撃を逃れた敵機が、二人をめがけ爆弾を放つ。
比叡は咄嗟に榛名を抱き寄せた。
視界を遮るほどに巻き上げられる、砂と水。
「っつぁ!」
そのうちの一発が、比叡を直撃する。
「お姉様!」
「……っ、まだだ!」
榛名の声を聞き流し、比叡は空を振り仰いだ。
主砲と副砲、全ての砲身を上へと向ける。
「まだ。撃てるものが、あるなら―――」
また押し寄せる、敵機の群れ。
「―――撃て!」
比叡が吠え、全砲門が火を噴いた。拳を握り、砂地を踏み締め、衝撃に耐える。機銃ほどの正確さはないが、それでも幾らかの敵を屠ることはできるし、そうでなくとも爆撃の狙いを狂わせる効果は十分にあった。
「はいっ!」
ひとつだけ残った主砲で、榛名も続く。
撃ち漏らした敵機の爆撃。
「っ!」
「……大丈夫、です……まだ、いけま、す」
青ざめた顔で振り向く比叡に、吐息だけで答える榛名。
「っ……、撃て!」
これでもかと押し寄せる、敵編隊。
「撃て!」
立て続けの斉射で、熱を帯びる砲塔。
「撃て!」
爆弾と砕け散った敵機の残骸が雨霰と降り注ぐ中を、無数の敵機が狂ったように飛び回る。辺りは抉られ、瓦礫が降り積もり、砂浜だったとは思えない無惨な様相を呈していた。
そして。
その時が、やってくる。
「撃て!」
沈黙する主砲。
爆弾を抱いて突っ込んでくる敵機。
比叡は再び、榛名を抱き寄せた。
両の腕でしっかりと包み込んで、自らの背で爆撃を受け止める。
「ぐ、っ……!」
「お姉さま!」
殆ど悲鳴のような声で、榛名が叫ぶ。
いくら金剛型戦艦の装甲といえど、一編隊の爆撃の全てをまともに受けて無傷ではいられない。決して少なくない損害を受け、比叡はそれでも声だけは上げなかった。
―――声を上げれば、榛名を不安にさせる。
「お姉さま! 止めてください! おねえさま!」
榛名は狂ったように喚きながら比叡の腕を振り解こうとするが、ぼろぼろの彼女の体では、力一杯抱き締める姉を引き剥がすことなど到底できなかった。
「いまならまだ、間に合います! 榛名のことは捨て置いて」
逃げてください、と。
そう言う彼女の言葉の最後は、爆音にかき消された。
「……大丈、夫」
榛名の耳元で、比叡が囁く。
「私は、まだ、大丈夫。―――榛名を」
よく通る、低い声で。はっきりと。
「榛名を、ひとりぼっちになんて、しないから。絶対」
*
あんなにも激烈だった敵の攻撃が、嘘のように止んだ。
諦めてくれたのかとも思ったが、何のことはない、単に爆弾を全部落としきったので補充しに戻っていっただけだった。現に、遠くからまた、低い唸りが聞こえてくる。
爆弾を満載して、敵の編隊が戻ってきたようだ。
「……榛名」
「……はい」
ふたり、砂の上にへたり込んで、抱き合ったまま言葉を交わす。少し潮が満ちてきたのだろう、戦っている最中は踝までしか水に浸かっていなかったのが、今は座っている二人の腰近くで波が遊んでいる。
「次が、来たね」
気怠げに、比叡が問う。彼女も今や、榛名と大差ない位にぼろぼろだった。
「はい」
音はどんどん近く、大きくなる。
「どう……まだ、いける?」
「榛名は……まだ、やれます……けど。弾が、もう。ありません」
途切れ途切れに、少し舌足らずに、榛名が言う。彼女が今より少し幼かった頃、夜更かしをして眠気に負けそうな時、確かこんな喋りかたをしていたと、比叡は懐かしく思い出した。
「うん。……私もだ」
先刻よりも大きな音をたてて、敵は近づいてくる。どうやら、先刻よりも数が多いらしい。
「……怖い?」
比叡が問うと、榛名は小さくかぶりを振った。
「お姉さまが、側にいてくださいますから」
―――やるだけのことは、やった。
艦娘として、戦艦として。矢尽き刀折れるまで戦い抜いて滅びるのだ。
「……うん」
しかも、榛名の隣で。
「私もだ」
これ以上、望むことがあるだろうか。
どどどどどどどどっっ!
不意に鳴り響く機銃音。空を振り仰げば、航空機同士が空中戦を展開している様が目に飛び込んできた。
(なんだ―――同士討ち?)
否。
牙を剥く化け物じみた機体に混じって飛び回っているのは、濃緑のボディにプロペラと翼を持つ、人の手によって作られた航空機。
「味方……!」
中空を縦横無尽に駆け、次々と敵を撃ち落としていく飛行機たち。凶暴な深海棲艦の飛行個体も、人の作りし戦闘機の前では鳥のの餌食になる蜻蛉同然だった。
と、混沌とした空中戦の上をすり抜けて、二人のいる浜辺へと飛んでくる機体が一つ。濃緑の細身に、一本の白いライン。
「偵察機……翔鶴の、だ」
仲間の放った偵察機は、二人の頭上をくるくると二度旋回して、仲間がいると思しき方角へと飛び去っていった。
空中戦に決着がつき、再び辺りに静寂が戻って。
ひとの声―――誰かの呼ぶ声が、聞こえた気がした。
「………ん」
声は、次第に近くなってくる。
沖合に、人影―――艦娘の影。
駆逐艦が、三人。
「ひ………さ……ん……!」
先頭をきって駆けてくるのは、雪風だった。
「榛名さん! 比叡さん……ひえいしゃん!」
雪風は浅瀬まで全速力でやって来ると、艤装の動力を切り、浅瀬をばちゃばちゃと子犬のように走って二人のもとへと駆けつけた。
「まにあっでよがっだぁぁぁ! うわぁぁん!」
そして、比叡の羽織―――もう殆ど着衣の体を成していなかったが―――に縋りつくと、わんわんと泣きじゃくった。
「こら雪風! 比叡さんは怪我しとるんじゃけぇ、そがぃにしがみついたらいけんで!」
「比叡さん、榛名さん、お待たせしました。遅くなって申し訳ありません」
後から追いついてきた浦風と浜風が口を開く。
「いや……絶妙なタイミングだったよ」
比叡は片手で雪風の頭を撫でながら、ありがとう、と目を細めて微笑んだ。
「お迎えにあがりました、と言いたいところですが」
背筋を伸ばし、目礼を返して、浜風。
「さすがに私達では戦艦娘を二人も曳航するのは到底無理ですので、金剛さんと霧島さんがいらっしゃるまでお待ちください」
「お姉さまが……」
こんごう、というそのたった四文字が、傷ついた二人を不思議と安堵させる。そういえばこの駆逐艦娘たちは、金剛の随伴を務める常連だった。
「そうそう。うちらは、比叡さんと榛名さんの護衛兼金剛姐さんの露払いじゃけぇ……と言うても」
「ええ。暫くは、来られないでしょうね」
浦風と浜風は、目配せをして苦笑した。
「え」
比叡と榛名が青ざめる。
「お姉さまに何か!?」
「いえ。ただ……」
「可愛い妹達を痛めつけてくれたオトシマエをつけにゃあ気が済まん、ゆうて、霧島さんと一緒に敵陣に突っ込んで行きんさった」
今頃大暴れしとりんさるわ、と肩をすくめて笑う浦風。
「そういうことです、から」
背筋を伸ばした姿勢を崩さず、浜風。
「私たちが金剛さんの名代として、お二方の護衛に参りました。大事なお役目、精一杯務めさせていただきます」
「ゆきかじぇもいますから!!」
仲間たちの心強い言葉に、比叡と榛名は目を見合わせ、そして一緒に破顔した。
―――変わらないこと、変わったこと。
繰り返したくないこと、やり直したいこと。
様々な思いを抱いて、誰もがいまを生きている。
―――Re-《fin.》
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