「ゆりさん助けて! もうあたし一人じゃどうしていいかわかんないよぉ…」
土曜の夕刻、来海ももかの番号から発せられた電話で半泣きのえりかがそう告げた時、月影ゆりは自分の顔から血の気が引く音を聞いた気がした。
インモラリスト
どんどんっ!
えりかは姉の部屋のドアを拳で雑にノックすると、返事も聞かずに室内へと足を踏み入れた。手には一人用の土鍋と蓮華、それからミネラルウォーターのボトルを載せた小さな角盆。
「もも姉、起きてる? ってか、起きて」
ごはんできたよ、と、えりかはベッドの上の膨らんだ毛布に向かって呼びかけた。
「んー……めんどくさい」
もぞもぞと寝返りを打って、いかにも気怠そうな声でももかが答える。
「だめだって。ごはん食べなきゃ薬飲めないじゃん? あと、もも姉がこれ食べてくんないとあたしの立場がなくなっちゃうんだよね」
立場って何なの、と思いつつ、口に出してツッコむのも億劫に感じて。んう、と声とも何ともつかない音を発して、ももかはのろのろと体を起こした。パジャマ代わりのTシャツ姿でベッドのヘッドボードに背を凭れて座り、眉間に皺を寄せてくしゃくしゃになった長い髪をかき上げる、その膝の上にえりかがすかさず盆を置く。
「ちょっと。いきなり置かないでよ」
「だぁいじょうぶ、少し冷ましてあるから熱くないし」
「そーゆー問題じゃな・い」
的外れな受け応えをしながら土鍋の蓋を取る妹にももかが少し苛立っているのは、多分に熱のせい。普段の彼女は、もっと大人の余裕がある。土鍋の中身は、卵雑炊。
「……! ちょっと、これすっごい美味しいんだけど!?」
蓮華で軽く一掬い、口にして、ももかは眠そうな目を見開いた。
「これほんとにえりかが作った? それとも熱で私の味覚がおかしくなった?」
「んなわけないじゃん。ってか、もも姉いま結構ひどいこと言ったよ?」
knock-knock
むう、と頬を膨らませるえりかの後ろで、ドアをノックする音がして。
「……えりかちゃん、ご飯できたわ」
冷めないうちに食べちゃって、と、月影ゆりは姿を現すなりそう言った。
「やった、ゆりさんの親子丼! いただきま!」
「?&%$#!! ゆり!? ちょ、なんでゆりが居るの!?」
「はーい、あたしが呼っびまっしたー!」
入れ替わりに部屋を出ようとしたえりかが、ゆりが答えるより先に声を上げる。いい仕事したっしょ? 褒めて褒めて! と言わんばかりの笑顔で、
「あ、ゆりさんに電話すんのにもも姉の携帯使ったから」
よろしく! と言い残し、来海家の次女はばたばたと階段を駆け下りていった。
「……そういうことよ」
ゆりはえりかが開け放して行ったドアを静かに閉めながら、
「ももかだと思って電話取ったら、あの子が悲愴な声で『一人じゃ無理、どうしていいかわかんない、助けて』って言うんだもの。てっきり、何かとんでもないことでも起こったかと思って」
心臓が止まりそうになったわ、と苦笑した。
「あー……ごめん。ほんと、タイミング悪い、っていうか。今日、両親ふたりとも仕事でいなくてね。こういう時って、だいたい私が、家のことやるんだけど。こんな訳で」
申し訳なさそうに首をすくめるももか。話すペースが随分ゆっくりなのは、多分熱の所為。普段の彼女は、もっと回転が速い。
ゆりは小さくかぶりを振りつつ、ベッドの傍の椅子に腰を下ろした。
「でも。思ったより元気そうで、安心したわ」
「ん。夕方撮影から帰った時は、あったまガンガンするし、寒気はするし、大変だったけど。熱が上がってきたら、なんか楽になっちゃった」
「……前言撤回。どのくらいあるの、熱」
ゆりは眉間に皺を寄せて、ももかの額へと手を伸ばした。
触れる掌の冷たさに、ももかは小さく息を呑む。
「ん……三十八度、後半?」
答えるももかの額を離れたゆりの手は、流れるように下へと降り、指の背で頬へと触れる。
「全然安心じゃないじゃない」
そして一瞬離れたかと思うと、掌でぺち、とももかの額を叩いた。
「あいたっ」
「早くそれ食べて。薬飲んで寝て頂戴」
「……はーい……あ、えっと、薬、一階のリビングにあるんだ。えりかに言って、持って来させてくれる?」
少し申し訳なさそうにももかが言うと、ゆりはお易いご用よ、と言い残し、部屋を後にした。
*
「んーじゃっ、ゆりさん、後よろしくっしゅ!」
食事を終え、ももかへ薬を届けに二階へ上がっていったえりかは、階段を駆け下りたかと思うと、土鍋の盆を台所に置くなりそう言い残し、そのまま廊下を走り去って行った。
「えっ」
洗い物をしていたゆりが何事かと問う間もなく、きぃ、ばたん。と、玄関の扉が開いて閉じる音がして。
「ちょっと……どういうこと……?」
ゆりの疑問は、誰にも答えられることなく夜のキッチンに消えた。
「ももか」
ゆりはノックもそこそこに部屋へ入ると、ももかの枕元に立った。
「えりかちゃんが―――」
「あー、うん、知ってる」
ももかは全てを聞き終える前に被っていた毛布から顔を出して、何でもないことのように答えた。
「どういうこと?」
ゆりの眉間に皺が寄る。
「私が言ったのよ。つぼみちゃん家に泊まりに行け、って」
「……」
ゆりの眉間の皺が深くなる。
「だってさ。折角ゆりが来てくれたんだし、二人きりになりたいじゃない?」
「……ももか」
腰に手を当て、仁王立ちになった彼女の、
「貴女、熱が幾らあるって言ってたかしら」
「三十八度後半」
声の温度はみるみる下がり。
「……そうね。私もそういう風に記憶してるわ」
「……」
「……」
今や氷点下。
「だって、さ。こんなチャンス、滅多にないじゃない?」
「だからって。まったく、何考えてるのよ」
「何、って……えっちなこと?」
「……」
「……だって」
少し跋が悪そうに、顔を半分毛布で隠すももかの、
「さっきの、ゆりの手。冷たくて、すごく気持ちよくて。……あれからずっと、体が熱くて。もっと、触って欲しくて」
仕方ないの、と。
上目遣いに見つめる、熱を帯びた視線が。
「体が熱いのは当たり前でしょ。熱があるんだから」
不意打ちで、ゆりの理性を溶かしてゆく。
「ん……だから、ね。お願い、もっと、ちゃんと」
―――触って?
「……ほんとに、仕方ない子ね」
蕩けるようなももかの囁きはしかし、大きな溜息に弾かれ。
ゆりは踵を返し、部屋を出ていった。
「……あー……」
(本格的に怒らせちゃった……かな)
階段を下りていく足音を聞きながら、ももかはぐったりと枕に頭を預けた。
*
どの位、経った頃だろうか。
knock-knock
再びノックの音がして、ゆりが姿を現す。
「―――ゆり」
見捨てられていなかったことに安堵して、よかった、と、ももかは思わず声に出して呟いた。
「キッチンのガスの元栓は閉めたし、玄関の鍵も掛けたわ」
淡々とそう言いながら、ゆりは静かにドアを閉め、
「お隣のつぼみちゃんの部屋からは、確かにえりかちゃんの声が聞こえたし。お望み通り、この家には今、私達ふたりきりよ」
ももかの元に歩み寄ると。
「それで?」
ベッドの端に腰を下ろし、
「ももかは私に、どうして欲しいんだったかしら」
水仕事で冷えた指先でそっと、ももかの頬に触れた。
「ん……いっぱい、触って」
見上げる瞳は、羞恥と、期待の色。
「気持ちよく。して?」
「……ほんとに」
ゆりは呆れたように溜息を一つ落とすと、ももかの顔を覗き込んだ。
枕元に突いた手に体を預ければ、ベッドのスプリングがぎし、と軋む。
「しょうがない子ね」
片手で無造作に眼鏡を外し、見下ろすその瞳に嗜虐の色が過ぎったと思った時には、
「―――」
息を呑む間もなく、ももかの唇は塞がれていた。
ことり、と、ヘッドレストに眼鏡を置く音がして、口吻けが一気に深くなる。
「ん、……っ、ふ、」
呼吸のリズムに合わせて、ゆっくりと絡め取られる舌。溢れた唾液が、熱で乾き、荒れ気味の唇を濡らす。ももかの腕が、真っ直ぐな黒髪ごとゆりの首を掻き抱いた。歯列をなぞり、口蓋を擦る、舌。或いは上になり、或いは下になり、重なり合う柔肉の塊は、そのまま溶け合ってひとかたまりになってしまいそうになりながら、唇の隙間から淫靡な水音を漏らした。
「あ……でも、」
息苦しさに口吻が解けたその合間に、ももかがふと思い出したように声を出す。
「ゆりに風邪、伝染しちゃったら悪いかな」
「それ、今更だわ」
ゆりは呆れたように苦笑して、
「……ま、私は大丈夫だと思うけど。夏風邪は馬鹿しかひかない、っていうし」
揶揄うようにそう言った。
「む。なんか失礼なこと言われた気がする」
ぷっと頬を膨らませるももか。こんな時でも、愛嬌たっぷりに。
「だって。熱だして寝込んでる癖に、こんなこと強請るなんて。馬鹿じゃなかったら」
何なの、と苦笑しながら、ゆりは指の背でももかの首筋に触れた。伝わる温度と脈の速さは、邪な期待よりもたぶん、単純に発熱によるもの。
「んなこと言って。ゆりだって、やる気満々な癖に」
不服そうに、ももかがゆりの眉間を指先で小突く。
「ほんとにその気が無きゃ、絶対自分から眼鏡取らないじゃん?」
「あら。こういう私は、気に入らない?」
ゆりが少し意地悪く答えると、
「まさか。大歓迎」
ももかは愉快そうに笑って、両腕で再び彼女の首を抱き寄せた。
ゆりは薄く笑って、引き寄せられるままにもう一度口づける。
「ぅん―――」
深く。
Tシャツ越しに胸の膨らみを弄る手が、頂上の固い突起に触れる。
「んっ、」
ももかの背中が、小さく跳ねる。
口吻は結んだまま、胸の尖りを布越しに、指先で弄り続けていると、
「ぁ、もっ……ちゃんと、直に触って……っ」
抗議の声が、途切れ途切れに聞こえた。
「そう。じゃ、脱いで」
「ん……ゆりも脱いでよ」
「しょうがないわね」
明かり消して頂戴、と短く言われて、ももかは枕元のリモコンで天井灯を落とした。そうして枕に頭を預けたままもぞもぞとTシャツを脱ぐと、ゆったりとした動作で着衣を一枚ずつ取っていくゆりの姿が目に入る。空気清浄機の稼働ランプの仄かな灯りを背に、浮かぶシルエット。
(……綺麗)
ひとの体―――それも、プロポーション抜群なファッションモデルの体を見慣れている筈のももかの目にも、ゆりの裸身は美しく映った。惚れた弱みの贔屓目を差し引いても、モデルのそれに全く引けを取らないと、ももかは思う。
「あっ、」
ももかが見惚れている隙に、ゆりの唇が彼女の柔らかな胸の先端を包み込む。突然の甘い刺激と重なる肌の冷たさに、ももかの肩がびくりと跳ねた。
「……寒い?」
ゆりが問う。覗き込む瞳に、不安が過ぎる。
「んん、大丈夫……ゆりの体、ひんやりして、気持ちいい」
「そう」
恍惚と答えるももかに、ゆりはそれならいいわ、と短く答え、微笑んだその唇でももかの胸に口づけた。
「あっ―――」
まだ未熟な葡萄のように固く結んだ乳首を、片方は指先で捏ね、撫で、摘み。もう片方は固くした舌の先で転がし、或いは歯列で擦り、或いは舌の柔らかな腹で包み、唾液をたっぷりと絡め、ちゅ、と殊更に音を立てて唇で吸い上げる。
「っ、……ぅ、ん、」
不規則に与えられる刺激に、ももかの体は小刻みに震えた。喉の奥で押し潰した声を、口を手の甲で塞いで更に押し殺す。
やがてゆりの手と唇は、滑らかなウエストの括れを辿りながら下へと降りて、腰骨の硬さと、下腹部の柔らかさに触れた。
ももかが息を呑む。期待と羞恥がせめぎ合って、膝頭がじりじりと擦れ合う。
温度の低い掌が、ももかの脚を抱き抱えるように撫で。
唇が、内腿をゆっくりと上下しながら、時折ちゅ、と音を立てる。
「……っ、あんま、焦らさないで……っ」
裏返る寸前の声で言って、ももかは身を捩る。
「ももかが脚、開かないからよ。ほら」
ちゃんと開いて? と、嗜虐心全開でゆりが言う。
「そう。いい子ね」
おずおずと開かれたその場所に顔を近づけ、秘裂を軽く、舌でなぞる。既にそこは熱いとろみを湛えていて、は、と微かに息を呑む声が聞こえた。
戯れに、舌先で一番敏感な花芽を柔らかく突けば。
「あっ……!」
びくり、と、背中が小さな弧を描いて持ち上がる。
窪みの中に舌を挿し入れ、羹のようなぬめりと唾液を混ぜ返せば、にちゃにちゃと粘度の高い水音がした。
「ん……ぅ……ん、」
押し殺した声を漏らしながら、次第に速く、荒くなる呼吸。
ももかが身を捩る度に聞こえる、衣擦れの音。
ゆりは彼女の秘孔から溢れる蜜を自分のひとさし指と中指に十分に絡めると、それらを彼女の中へと押し込んだ。
「んぅ、」
するりと受け入れられた指で最初に感じたのは、彼女の内側の、尋常ではない熱さ。彼女が病人であることを今更ながら思い出して、躊躇ったのはほんの一瞬。
指を、動かし始める。
「んっ――――――ぁ、」
洞の奥で、二本の指は重なり合って弧を描き、或いは屈折し、内側をいっぱいに満たした蜜を掻き混ぜる。骨がちな長い指が抜き挿しを繰り返すたび、関節が洞窟の入り口を擦り、指の腹がこりこりとした襞を撫で、指先が奥を突きあげた。
「ぁ……ん、ぁう……っ、」
記憶を総動員し、彼女のいちばんいいところを、正確に愛撫する。指の出入りに合わせてとろとろと溢れ出す蜜が、淫靡な水音をいっそう大きくした。
腰の奥からパルスのように背筋を駆け抜ける甘い痺れに、ももかは身を捩り、波打たせす。次第に速く、浅く、荒くなる呼吸。
不意に、ゆりの舌が彼女の花芽を撫で上げる。
「っあっ―――!」
強い刺激に、彼女の白い喉が仰け反った。
指の動きはそのままに、柔らかな舌の腹が、固くした舌の先が、花芽を弄ぶ。
「ぁっ、……ん、ぁ、あっ、」
嬌声が、抑えきれない。ももかの体ががくがくとぎこちなく震え、脚は閉じようとしてゆりの頭を強く挟み込む。
「ももか。声、我慢しないで、ちゃんと聞かせて?」
貴女がいつも私に言ってることよ、と。
ゆりは普段と変わらぬ声にほんの僅か昏い欲望の色を滲ませ、薄らと笑う。ももかは身を捩りながらかぶりを振った。我慢するな、とは確かに自分がいつも口にしていることだけれど、いざ逆の立場に立ってみると、獣じみた卑しい声が自分の口から漏れるのを想像しただけで、羞恥で脳味噌が焦げそうだ。
「っあっ、ん、く、」
そんなことを思っている間にも、体の内側から浸食されていくような感覚に、正気を保つのが精一杯だった。
「あ、んぁ、ぅん……ぁぁ……ぁ……ぁ、ぁ……」
と、ももかの声のトーンが変わった。か細く吐息がちな声が、開いた唇から震えながら零れる。下肢はしなやかさを失い、膝からつま先までが真っ直ぐに硬直した。
限界が、近い。
「ぁ……は……ぁん……っ―――」
やがてももかは、背中をぐっと反らし、そのまま体を固くした。蜜壷の中の指がぎゅうっと締め付けられる。
「――――――」
そして、糸を引くようなか細い声を漏らし切ると、糸の切れたマリオネットのようにシーツの上へと身を沈めた。
暫し、彼女の荒い息の音だけが湿った闇を満たす。
「ももか」
ゆりは彼女の脚の間から身を起こし、
「……ももか」
その顔を覗き込んで、額にかかる髪を濡れていないほうの指先で払い、自分の額を彼女のそれに重ねた。
「辛い?」
伝わる熱の高さに、一寸無理させすぎたかしら、と不安げに囁く。
「……ううん……大丈夫」
ももかは触れあう額が解けぬように小さくかぶりを振るが、ゆりは少しも安心した素振りを見せずに、そう、と呟いた。
―――ももかは、知っている。
月影ゆりは、とてもお人好しである。
「……そんな顔、しないで?」
曇り顔で見下ろすゆりの両頬に手を添えて、ももかは苦笑する。
「今日……ね。うちに帰って熱測った時、ほんと、気分最悪だったの」
最近の彼女は、えりかやその友達に随分懐かれている―――それこそ、今日のように、困ったときに電話で泣きつかれるくらいに。
「頭ガンガンするのもあったけど、明日のゆりとのデート、キャンセルだろうな、って思って」
頭脳明晰、真面目でクールで厳しい、けれどとても優しいお姉さん。それが、中学生達がゆりに対して抱いているイメージだ。確かに、頭脳明晰、真面目と優しい、は当たっている。けれど。
「……デートじゃなくて、勉強会」
クールに見えてその実照れ屋で、照れ隠しにすぐこうしてしかめっ面をする。ついでに言うと、意外とロマンチストで、センチメンタリスト。
「だから、ね」
ゆりの反論をさらりと聞き流すと、ももかは枕に預けていた頭を少しもたげて、彼女の唇に口づけた。
少し長めの、けれど触れるだけの、キス。
「……本当に。すごく、嬉しかった。ゆりが来てくれて」
そして、ももかがそう言って微笑むと、ゆりもそう、と短く答えて微笑んだ。
「心配して、飛んできてくれたんだよね」
「……そういうことに、なるわね」
「お粥も、美味しかった」
「ん」
「それから」
ももかは緩慢な動作で、両手で包んだゆりの頬を愛おしげに撫でる。
「こうやって、私のわがままも聞いてくれて」
「……ん」
ゆりは少しくすぐったそうに、目を細める。
「……ねえ」
―――ももかは、知っている。
「うん?」
月影ゆりは、とてもお人好しである。
「もう一つ。わがまま、言っていい?」
「……代わりに宿題やって、っていうなら、丁重にお断りするわよ」
「ううん。そんなんじゃなくて、ね」
だから、
「さっきの、続き。して?」
ももかが強請れば、彼女は断らない。
「……ももか」
一度は呆れたように溜息をついて、
「貴女、自分が病人だっていう自覚はある?」
眉間に皺を寄せ、突っぱねようとするけれど。
「ん。熱のせいかな、欲しい、って思ったら、もう我慢できなくて」
―――おねがい。
切なさを帯びた瞳で、ももかが見つめれば、
「ほんと、仕様のない子ね」
彼女は決して、ノーとは言わない。
「……いいわ。そういうことなら」
目を閉じ、細く長く息をついて、再び目を開けたときの。
「―――っ」
彼女の瞳に宿るインモラルな艶めかしさに、ももかは総毛立つ。
「辛かったら、言って」
ゆりはそう言うと、ももかに覆い被さっていた体を少しずらし、深いキスで唇を結んで、自分の脚でももかの脚を割った。
「ぁっ、」
彼女の手で、ももかの奥で眠っていた欲望の燠火はあっという間に燃え上がる。
そこから先は、彼女の為すがまま、文字通り熱に浮かされたように名を呼び、善がり、悶え、溺れ、やがて上り詰めて果てるまで。
―――来海ももかの愛しい人は。
頭脳明晰、真面目でお人好し。クールに見えてその実照れ屋で、意外とロマンチストで、センチメンタリスト。
加えて言うなら、普段はモラリスト。
ももかの前でだけは、インモラリスト。
《fin.》
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