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昼食には遅すぎ、夕食にはまだまだ早い。本来なら閑散としているはずの食堂が、今は多くの艦娘で賑わっていた。 中央には、青々とした葉をつけた大きな竹が据えられ、色とりどりの短冊で飾られている。 「これは。立派な笹飾りですね」 大淀は目を見開いて、感心したように言った。 「武蔵さんと長門さんと、あk……夕張さんが、立ててくれたんですよ!」 弾んだ声で、暁が言う。 床には大きな分厚い鉄板が敷かれ、その上に青竹を固定するための鉄柱が取り付けられている。 「もう随分、短冊が下がっていますね」 丁寧に溶接された鉄柱。それが誰の仕事なのかはすぐに分かったが、大淀は敢えて目を上に逸らした。 「まだ序の口です。だって、陽炎型がまだ一人も来てない」 ぼそり、と言ったのは響。 「暁、響! 早かったな! ……おお、大淀も一緒か」 この企画の発起人の一人である武蔵が、手を振って一行を招く。駆逐艦娘たちは手を振って、大淀は会釈で、それに応えた。 「で、どうだ。提督殿の願い事は貰えたか?」 武蔵が促すと、響は頷いて、萌葱色の短冊を手渡した。 『ピンコロ 木暮光子』 「……提督殿らしいな」 老提督の書きつけを一瞥して、武蔵はふ、と笑うと、細い紙縒で短冊を笹に括り付けた。 「では、私も------」 「秘書艦殿は、何と書いたんだ?」 短冊を取り付けようとする大淀に、武蔵が話しかける。 「秘書艦殿はやめてください」 大淀は苦笑しながらそう言って、短冊を見せた。 『鎮守府予算が大幅増額されますように 大淀』 「金剛さんには、ロマンチックさが足りないと叱られましたけど」 「だが、これはこれで大事な願い事だな。叶えば、皆が喜ぶ」 「……そういえば。どうしても叶えたい願い事は、笹のいちばん高いところに付けるといい、って聞いたことがある」 響が言って、ちらりと武蔵に目配せをした。 武蔵は、小さく頷く。 「そうか。それなら、これは一番上に付けるべき、だな」 「え、一番上って、あんな……きゃっ!」 不意に襲う浮遊感に、大淀は小さく悲鳴を上げた。武蔵が、笹を見上げる大淀の腰を掴んで持ち上げたのだ。 「どうだ、これなら届くだろう」 そうして、ひょいと自分の肩に座らせ、胸元で彼女の脚をしっかりと支える。軽巡洋艦にしては長身の大淀を、軽々と抱えあげて揺るぎもしない、流石は戦艦武蔵。 「あ、あの……っ」 「鎮守府の皆にとっても大事な願い事だ。しっかり頼むぞ!」 「えっ、あ、はいっ」 最初こそ恥ずかしそうにしていた大淀だが、使命感を掻き立てられて急に真剣になる。 と、笹の天辺を見上げた大淀の視界に、一枚の短冊。 『大淀に早く許して貰えますように 明石』 淡い藤色の和紙に、見慣れた文字で書き付けられたそれは、大きな笹の上も上、いちばん天辺の、先端に結びつけられていた。 「……もう……本当に」 馬鹿、と、誰にも聞こえぬよう口の中で呟いて、大淀は自分の短冊を笹に結びつけると、先客の吊した藤色の短冊をこっそりと外し、自分の胸のポケットにしまった。 「ありがとうございました。……では、私はこれで」 地上に降り立った大淀は、武蔵に向かってぺこりと頭を下げると、皆さん楽しんでくださいね、と言い残し、踵を返した。 短冊を手に集まってくる艦娘たちの間をすり抜け、食堂の通用口をくぐって廊下に出た彼女が、元来た方とは反対に向かって歩き出すのを見届けて、武蔵と響は再び目配せをし、ふ、と口元を綻ばせた。
《fin.》
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