§6 Slayers!

深森 薫

 他校との対抗戦に出場するホグワーツ代表クィディッチチームは、各寮のチームから選抜された選手で構成される、所謂オールスターチームだ。ホグワーツ魔法学校の名を背負って戦うチームの練習は、戦術も技量も高いものが求められ、苛烈なことこの上ない。
「『癒えよエピスキー』」
 チームの練習には、これまた生徒の中から選抜された癒しの魔法を得意とする者が帯同し、怪我の治療にあたる。四年生のセレーネ・アルジェントもその一人だ。癒しの魔法は、怪我の程度が大きい――例えば、骨が折れているような場合、急激に治癒することで激しい痛みを伴うことがある。
「うぉあああああ!」
「んぎぎぎぎぎぎ!」
 今も、暴れ鉄球ブラッジャーの直撃を食らった選手たちが、鼻や肋骨を押さえて悲鳴を上げているところだった。
「あー……その、毎度のことだけど……ごめん」
 ばつが悪そうに頭を掻くのは、ジュピター・フォレスト。『撃墜王』の異名を持ち、プロのスカウトも一目置いていると噂されるビーターだ。ハッフルパフの選手だが、今は選抜チームの白黒戦を終えたばかりで、白いローブを羽織っている。
「いや、謝ることはないぞ!」
 叫んだのは、このチームのキャプテンを務めるグリフィンドールのチェイサー。実のところ、彼は別に叫んでいる訳ではなく、ただ地声がやたら大きいだけなのだが。
「君にはその調子でガンガン相手を撃ち落として貰いたい! そして他の皆にはこのレベルの鉄球を避けながら得点できるようになって貰いたい! チームが強くなる過程に怪我はつきものだ! そもそもクィディッチとはそういうスポーツだしな! 気にするな!」
「……はぁ」
「そうそう」
 気のない返事をするジュピターの背中をぽん、と叩いたのはヴィーナス・クロム、スリザリンの天才シーカーにして学園中の人気を集めるクィディッチ・スター。白黒戦用の黒いローブに、金糸の髪が強烈なコントラストを成している。
「ごめん、なんて台詞は、私のこと撃ち落とせるようになってから言いなさいよね」
「いや、クィディッチって相手を撃ち落とすゲームじゃないからな?」
 眉を顰めるジュピター。その実、ホグワーツのシーカーなら誰もが一度は彼女に撃ち落とされたことがある中で、唯一撃ち落とされたことがないのがこのヴィーナスだ。
「うぉーーい! ジューーーピターーー!」
 と、彼女を大声で呼ぶ者があった。スタジアムの無人の観客席の、最前列のフェンス際。彼女のチームメイトで、シーカーの赤毛の少女だ。小さな体でぴょんぴょんと跳ねながら荒々しく手招きをしている。
「……どした? そんなテンパって」
「これがテンパらずにいられっか! 事件だ事件!」
 ジュピターが駆け寄ると、赤毛の少女は堰を切ったように話し始めた。
「禁じられた森にドラゴンが出たって、授業で行ってた奴らが大慌てで逃げ帰ってきた! ほら、あれあれ! ミス・パーフェクトがユニコーン見に行くって言ってたアレだよ!」
 ジュピターが驚きに目を見開いたのは一瞬。すぐに踵を返して猛ダッシュで箒に飛び乗ると、矢のようなスピードでスタジアムから飛び立っていった。
「あっ」
 不意に、文字通り、思い出したようにセレーネが声を上げる。
「そういえば、マーズちゃんもユニコーン見に行くって言ってた。すっごい楽しみに」
 してたよ、と彼女が言い終わる前に、ヴィーナスも血相を変えて箒に飛び乗りあっという間に見えなくなった。

  ばきばきばきばきっ!
 幾星霜をかけて育った木々の幹が、枝が、いとも容易くへし折られ、蜻蛉の群のように周囲を飛び交う。
(魔法界って、つくづく)
 負傷した生徒に肩を貸しながら走っていたマーキュリー・ジェイは、心の中で零した。
(出鱈目にもほどがあるわ)
 学校の敷地内の森で、教師の指導の元で学校の課外授業に参加して、死にそうな目に遭うなんて。
 ――ヒポグリフ、セストラル、アクロマンチュラ。
 確かに、ホグワーツの「禁じられた森」には危険な魔法生物が多数生息している。だが、今回の授業で目指していたのはユニコーンの生息域で、そういった危険な生き物が棲んでいるのは森のもっと奥だ。
 それなのに。
(どうしてこんな所にドラゴンが!)
 しかも、何故か出会い頭から猛り狂っている。
盾よプロテゴ!』
  ずどぉぉぉぉんっっっ!
 一際、強い衝撃。上空を旋回し、急降下してきた竜の尾の一撃だ。地響きのようなそれは、魔法の盾越しにも空気をびりびりと震わせる。
「きゃあっ!」
 悲鳴を上げたのは、彼女と一緒に怪我人を運んでいた女生徒だった。プラチナブロンドの髪を緩やかな三つ編みに纏めた、小柄なレイブンクロー生で、名をベルチェ・フェスベスという。「魔法学校はじまって以来の才女」との誉れ高いマーキュリー・ジェイを常に側で観察し、その実力の秘密を探っている、学年次席の才媛だ。
「どうして私がこんな目に遭わなきゃならないんですの!?」
 苛立ちを露わにするベルチェを余所に、マーキュリーの頭脳はフル回転していた。どうすればこの状況を切り抜けることができるのか――
「何ですの、ドラゴンて!? あの巨体で空まで飛ぶなんて! 反則ですわ!!」
 甲高い声でベルチェがわめき散らす。相当なお嬢様らしいが、この非常時にも丁寧な言葉遣いを崩さないところを見るに、どうやらそれは本当のようだ。
 ――ふと、マーキュリーの脳裏に、一つの考えが浮かんだ。
「っ、ちょっと! 急に止まらないでくださいまし!」
 不意に足を止めた彼女に、三つ編みの少女がまたわめく。
「ごめんなさい、ベルチェ。彼女のこと、任せていいかしら」
「は!? えっ、ちょっと、どういうことですの!?」
 怪我人をベルチェに託し、必死で逃げてきた道をひとり戻ろうとするマーキュリー。
「試してみたいことがあるの。上手くいけば、あのドラゴンを足止めできるわ」
「はぁっ!? あ、ちょっ、お待ちなさいっ!?」
 言うが早いか、マーキュリーはクラスメイトが止めるのも聞かずに駈けだした。


『あの巨体で空まで飛ぶなんて! 反則ですわ!!』
 ベルチェのわめき散らした言葉。それは、マーキュリー自身が抱き続けてきた疑問そのままだった。確かに、ドラゴンの翼は大きい。だが、物理的に考えて、その巨体を持ち上げるにはどう考えても足りない。体長が二倍になると、体重は八倍になるのに対し、翼の面積は四倍にしかならない。そうなれば、翼面荷重――翼一平方メートルあたりが支える重さ――も、当然大きくなる。ドラゴンは、空を飛ぶ生き物のサイズの限界をはるかに超えているのだ。
 走りながら、マーキュリーは天を仰いだ。
 揚力は速度の二乗に比例するから、ジェット機のように飛行速度が大きければあの巨体でも飛べるだろう。だが、現に今、木々の隙間から見えているドラゴンは、飛行機と比べれば格段に遅い。
 ――では、彼等はどうやって飛んでいるのか。
 最も可能性があるのは、魔法。人間は基本的に、呪文を声に出して魔法を用いる。ならば、ドラゴンも鳴き声が呪文の働きをしているとは考えられないか。
 残念ながら、その可能性は先行研究で既に否定的な結論が出されている。
(だとしたら)
 少し開けた場所に辿りついたマーキュリーが見上げる先で、ドラゴンはゆったりと旋回し、逃げる学生たちの頭上めがけ再び向かって来る。
 マーキュリーはローブを脱ぎ、杖を構えた。
 チャンスは、一瞬。
 ドラゴンが、近づいてくる。
 背中を駆け上がる恐怖心を追い越して、彼女の脳を支配するのは知的好奇心。
「『ローブよ、移動せよロコモーター・ローブ』!」
 彼女の呪文と杖の動きに合わせ、レイブンクローのローブがロケットのように勢いよく飛び上がった。
 狙いは、ドラゴンの翼の中程にある、鋭い棘。
 タイミングはぴったり――
 と、思った瞬間。
  ずどおぉぉぉんっ!
 突然、ドラゴンが墜落した。不可視の力に引っ張られるように、慣性の法則を全く無視して、真下に。
 空気がびりびりと震え、一陣の風が吹き抜ける。
「やめておきなさい」
 マーキュリーが素早く視線を巡らせた先に、人がいた。ホグワーツのローブに身を包んだ、長い黒髪の女子学生。フードの裏地は深紅、グリフィンドールの色だ。
「ここは危険よ。悪いけど、貴女では役者が不足だと思うわ」
 歯に衣着せぬ物言い、年齢の割に大人びた、整った顔立ち。
 神秘的な縄目模様の刻まれた、白い杖。
「……正直、私もそう思うわ」
 マーキュリーは苦笑した。あまり他人に関心を持たない彼女でも、『グリフィンドールの魔王』マーズ・フレアの評判くらいは知っている。そんな傑物と比べられて、不足でない役者などいるものか。
「貴女の邪魔はしないわ。やるべきことだけやったら、退散するから」
 マーキュリーはそう言うと、落ちてきたローブを拾い上げ、再び呪文を唱えた。
「『ローブよ、移動せよロコモーター・ローブ』」
 彼女の杖の動きに合わせて宙を舞うローブは、墜落したドラゴンの背後に回り込み、狙い通り、右の翼の中程にある鉤爪に引っ掛かった。
「『縛れインカーセラス』」
 すかさず次の呪文。魔法の力で出現した紐が、鉤爪にしっかりとローブを固定する。
  きしゃあぁぁぁぁっっ!
 何かを感じ取ったのか、ドラゴンは苛立ったように吼え、翼を大きく広げた。力強く二、三度羽撃き、
  ずしゃあぁっ!
 地を蹴ったかと思うと、右に大きく傾き、そのまま墜落した。
 ローブを翼に縛り付けた側が、浮かなかったのだ。
「!?」
 飛び立ったドラゴンを再び魔法で引きずり落とそうと構えていたマーズは、肩透かしを食らった形になり、眉を顰めてマーキュリーの方を見た。
「……貴女。一体、何をしたの」
「ドラゴンは」
 翼だけで飛んでいるのではないわ。確かに彼等の翼は大きいけれど、物理的に考えて彼等の巨体を持ち上げるには足りない。鳥が飛べるのは、進化の過程で筋肉や骨を軽量化し、代謝効率を高める方向に進化を遂げたからよ。ドラゴンのあの巨体は、どう考えても重すぎるの。だとすれば、彼等はどうやって飛んでいるのか。答えは恐らく、魔法の力で飛んでいる、よ。人間は基本的に、呪文を声に出して魔法を用いるでしょう。では、ドラゴンもそうかというと、否、彼等は飛行する度に鳴いている訳ではないし、それについてはすでに否定的な証明が為されているわ。そこで私は仮説を立てたの。ドラゴンは、翼を羽撃かせる音を用いて魔法の力を行使しているのではないか。故に、羽撃きの音に雑音が混じると、魔法の力が正しく行使されず飛べなくなる筈、と。そしてその検証のためにローブを翼に固定し、ばさばさと雑音が入るようにしてみたのだけれどどうやら当たりだったようね。
 ……という説明をぐっと飲み込んで、
「羽撃きの音に雑音が混じると飛べなくなるのよ」
 マーキュリーは簡潔にそう答えた。
 マーズは一瞬目を丸くして、
「そういうことなら。これも使って頂戴」
 自分のローブを脱いで差し出した。
 軽く頷いて、マーキュリーが再び呪文を唱える。彼女の杖の動きに合わせ、マーズの手から飛び立ったローブは軽やかに宙を舞い、ドラゴンの左の翼の鉤爪に引っかかった。
「『縛れインカーセラス』」
  きしゃぁぁぁっ!
 金属を強く擦り合わせるような声を上げるドラゴンの、口の中に強い光が見えたのは一瞬。長い首をしならせ、大きく口を開けたまま天を仰ぐ。
「「盾よプロテゴ!」」
 二人の呪文はほぼ同時。
  しゅごぉぉぉぉっっ!
 二枚の不可視の盾が、ドラゴンの口から放たれた灼熱の吐息を弾いた。飛び散った熱波で、生木の焼ける匂いがそこかしこから立ち上る。
 ドラゴンは再び天を仰いだ。
「『水よアグアメンティ』!」
 マーズが魔法で応戦する。
「! 待っ――」
 マーキュリーは止めようとしたが、間に合わないと見て咄嗟に呪文を唱えた。
「『護りの繭プロテゴ・テグミネ』!」
 不可視の盾が完成するのと、ほぼ同時に、
  ぶぼごぉっっっっっっっ!
 爆発。
 ドラゴンの灼熱の吐息に出会った瞬間、マーズの放った大量の水が暴力的な音とともに破裂した。熱湯の飛沫が雨のように降り注ぎ、周囲を高温の蒸気が一気に覆い尽くす。視界はゼロ、一面の白だ。
「何が、起こったの……?」
 轟音に思わず顔を覆ったマーズが、おずおずと顔を上げた。
「ドラゴンのブレスに水で応戦するのは、やめた方がいいわ」
 答える声が、すぐ側で聞こえる。
「高温の熱源に大量の水が出会うと爆発するの。危険よ」
 すぐ隣に、杖を構えるマーキュリーの姿。
「……つまり、私は危うく自分の魔法で自滅するところだったわけね」
 マーズは苦笑し、辺りを見回した。不可視の繭に包まれたように、二人の周囲を白煙が避けてゆく。熱も感じられない。
「これ、盾の呪文? でも、こんな形、見たことないわ」
「盾の呪文を少しアレンジしただけよ。効果範囲が小さいから、少し窮屈かもしれないけど」
「アレンジ、って」
 マーズは内心舌を巻いた。確かに、呪文の構造や魔法に使われる言語を熟知していれば、新しい呪文を生み出すことも、今ある呪文を改変することもできる――と、聞いたことはある。呪文学の教師のような、熟練の魔法使いならば、そういうことも可能だと。
「……貴女がここに居てくれて良かったと、心底思うわ。さっきはごめんなさい、失礼なことを言って」
「いえ」
 小さくかぶりを振って、マーキュリーはそう答えた。
「仕方ないわ。役者が不足なのは、事実だもの」
 霧が、晴れる。
 再び、ドラゴンと対面する。
「『落ちよディセンド』!」
 マーズの呪文で、ドラゴンは轟音とともに崩れ落ちるように地面に倒れ伏した。
「ところで、貴女――」
  んぎゃあぁぁぁおっっ!
 彼女がマーキュリーに向かって掛けた言葉を、ドラゴンの咆哮が遮り。
「『動くなイモビラス』! 五月蝿いわね、黙ってなさい!」
 そのドラゴンをマーズの魔法が押さえつける。地べたに顎をつけて突っ伏す様は、まるで叱られて拗ねた大型犬のようだ。
「貴女は、怖がらないのね。私のこと」
「え?」
「……『グリフィンドールの魔王』の噂くらい、聞いたことあるでしょ」
 何のことか分からない、という風にきょとんとする相手に、マーズは少し呆れたように畳みかける。
 マーキュリーはああ、と気の抜けた声で頷くと、
「そうね。でも、今私の前にいる貴女は、魔王というより、皆を逃がすために独りで邪竜に立ち向かう勇者といったところかしら」
 悪戯ぽい笑みを浮かべてそう言った。
「やめて頂戴」
 眉を顰めて、マーズ。
「私はそんな聖人君子じゃないわ。今こうしているのだって、半分はただの腹いせだもの」
「腹いせ?」
「私、結構……いえ、かなり、楽しみにしていたのよ、ユニコーンに会えるの。それがこの大トカゲのせいで台無しになったじゃない」
 ドラゴンを睨みつけながら、マーズが続ける。
「しかも、こいつがここに居座ってる限り、次の観察会は開かれないでしょ。一寸くらい八つ当たりしたって、罰は当たらないと思うわ」
 話してたらまた腹がたってきたわね、とボヤいて、彼女はまたドラゴンに杖を向けた。
  ぎゃおぉぉぉんっっ! おぉぉぉぉんっっ!
 マーズが唱えたのは、所謂「結膜炎の呪い」と呼ばれるもの。本当に病気になるわけではないが、これを掛けられた者は、目に刺激物が滲みるような激しい痛みにしばらく悶えることになる。全身を鎧のような鱗に覆われたドラゴンも、これには堪らず苦悶の鳴き声を上げる。
「………」
 本当に八つ当たりのようで、マーキュリーは内心少しだけこのドラゴンを不憫に思った。
「そういう貴女こそ。逃げようと思えば逃げられたのに、わざわざ引き返して来るなんて。相当なお人好しでしょ」
 それこそ勇者様じゃない、と、意趣返しのようにマーズ。
「私の場合は、九割が好奇心ね。あれが本当に有効か、試してみたかったの」
 そう言ってマーキュリーは、先刻ドラゴンの翼に縛り付けたローブを指さした。
「……もしかして……確信、なかったの?」
 マーズの顔が青ざめる。
「ええ。だから、実験する千載一遇のチャンスだと思って」
「……まあ、ある意味、勇者ね。『動くなイモビラス』!」
 とんでもないことを口にする相手にドン引きしながら、ドラゴンが首をもたげようとする様を横目で見て取り、マーズはすかさず魔法を放った。
「腐ってもドラゴンね、魔法の効果がすぐ切れちゃうわ。ほんと面倒」
「……」
 普通の魔法使い、まして学生では、強力な魔法生物であるドラゴン相手に魔法をかけても効果を発揮させることすら難しいのよ、と、マーキュリーは内心ツッコミを入れて曖昧に微笑んだ。
 と。
  ざっ!
 不意に草木の千切れる音がして、何かがぶつかるような衝撃と足下を掬われる感覚がマーキュリーを襲った。思わず目を閉じ、次に来たのは全身が浮遊する感覚と頬に当たる強い風。背中と脚に堅い物が当たる感触に、目を開けば一面の白。
「はぁぁぁぁ……よかった………」
 びゅうびゅうと風を切る音に混じって、聞き覚えのある声が降ってくる。
「……ジュピター?」
 どうして、と、疑問が思わず口をついて出た。
 少しずつ、状況が飲み込めてくる。
「はぁ? いや、何でって」
 背中と脚に当たっている堅い物は、ジュピターの革籠手だ。いま自分は彼女に抱きかかえられていて、彼女は手放しで箒に乗っている――それも、結構な高度を。
「森にドラゴンが出たって聞いたから、心配ですっ飛んできたんじゃないか。ってか、何だよあれ! ドラゴンの爪にローブ引っかかってるし、もう食われちまったのかと思ってマジで心臓止まりそうになったよ!」
 そして、視界を覆っていた白はジュピターのローブの色だ。
「今日は、ハッフルパフのユニフォームじゃないのね?」
「ん? ああ、うん、今日は選抜チームで白黒戦やってたから」
「似合ってるわ」
「え、んん、ありがと……って、ちょ、いま話逸らそうとしてるだろ?」
 マーキュリーの頓狂な応答に毒気を抜かれて、ジュピターの語気がトーンダウンする。
「……ありがとう。心配してくれて」
 そして、マーキュリーがそう言って微笑めば、
「あ、ああ……いや、うん」
 ジュピターは困ったように笑うしかなかった。
「ちょっと! いきなり何すんのよ! 痛いじゃないこのバカ!」
「その言い方ひどくない!? せっかく助けに来たのに!」
 けたたましい喚き声が二人の耳に飛び込んできた。
 声の主は、箒に乗ったヴィーナスとマーズだ。マーズの方は、乗っているというより、箒の柄に引っかかっていると言った方がいい。
「誰も頼んでないわよ! 大体、助けに来たなんて大口叩くなら、もうちょっと丁寧に扱いなさいよ! ほらあんな風に!」
 物干し竿に掛かったタオルのように無理な体勢を取りながらキレ散らかすマーズは、そう言ってジュピターとマーキュリーの方を指さした。
「無理無理、あたしあんなゴリマッチョじゃないもん! っていうかお姫様抱っこしてほしいんならそう言えばいいじゃん!」
「違うわよバカ!」
「誰がゴリマッチョだ! あたしは腹筋割れてないって! 何回言わせんだよ!」
 口げんかに巻き込まれてジュピターが声を張る。
「ドラゴンが!」
 マーキュリーが割り込んだ。
「動き始めたわ!」
 その声に、皆が一斉に森を見る。
  ぐるるるるるる
 マーズの魔法で地べたに伏せていたドラゴンが、起き上がり、低く唸りながら翼を広げた。ばさり、ばさりと羽撃く度に千切れた木の葉や折れた小枝が舞い上がる。
  きしゃあぁぁぁっっ!
 いくら羽撃いても飛べないことに苛立ったのか、ドラゴンは怒気をはらんだような鋭い声を上げた。
「ヴィー! 今すぐ私をあのトカゲの所に下ろしなさい!」
 マーズが怒鳴る。
「ちょ、何言ってんの!? んなことできるわけないじゃん!」
「何でよ!」
「何でって! 危ないからに決まってんじゃん!」
「危なくないって!」
「危ないってば!」
「ああもう! なら自分で行くから箒よこしなさい!」
「あー!」
 暫し押し問答を続けていた二人の乗った箒が、突然支えを失ったかのように自由落下を始めた。
「ちょ、何すんの! 危ないじゃない!」
 ふらふらと上昇する箒。
「あのクソトカゲ、もう二、三発痛い目みせてやらないと気が済まないのよ! いいからさっさとこの箒よこしなさい!」
 箒は再びすとん、と落下する。
「ダメだってば! ハイジャックはんたーい!」
 再びふらふらと上昇する箒。
「何やってんだ? あれ」
「……たぶん、箒を乗っ取ろうとしてるんじゃないかしら」
 ジュピターの素朴な疑問に、マーキュリーは上の空加減で答え、
「んなことできるの!?」
「理屈の上では、ね」
 普通は無理だけど、と付け加えた。
「つべこべ言わずに貸しなさい! ケチ!」
「ケチで結構!」
「そうだわ。だったら――」
 乱高下しながら丁々発止の遣り取りを繰り広げる二人に、マーキュリーはふと思いついたように口を開いた。
「あのドラゴン、私達で倒してしまわない?」
「へ!?」
「はぁ!? ちょ、冗談じゃ」
「できるの?」
 ないわ、というヴィーナスの言葉を遮るように、マーズが瞬速で食いついた。
「ええ。この面子なら、可能だと思うわ」
「勝算は?」
「全員がちゃんと連携さえできれば、確実に」
 マーキュリーが即答すると、
「貴女がそう言うなら」
 マーズは小さく笑い、乗ったわ、と頷いた。
「ちょ、嘘でしょ!?」
「いやいやいやいやいや無茶言うなよ」
 クィディッチ組が青ざめる。
「ドラゴンの素材って、どれも高値で売れるのよ。心臓の琴線は勿論、今ぱっと思いつくだけでも、鱗に爪、牙。脳味噌に、目玉、肝臓、腸に膀胱。雄なら睾丸、雌なら卵巣。新鮮なものなら、血液や肉まで。四人で山分けしても結構な金額になると思うわよ」
「へぇ……結構、って、どのくらいだい?」
 食いついたのは苦学生のジュピターだ。
 マーキュリーは頭の中で素早く算盤を弾く。
「一人頭の取り分で、クィディッチ二チーム分の箒を最新型に買い換えてもお釣りが来るわね」
「よし。乗った」
 ジュピター、あっさり陥落。
「マジで!? いや、ちょ、みんな正気!?」
「ここに居合わせたのが運の尽きよ。つべこべ言わずに協力しなさい」
 四面楚歌で焦るヴィーナスの脚を、箒の柄に洗濯物のようにぶら下がったままのマーズが思いきりつねり上げた。
「あいだだだだわかりましたやるやるやりますぅ!」
 ヴィーナスが渋々降参すると、マーズは鉄棒の要領で体を持ち上げて箒の柄に腰掛け、
「じゃあ、策を聞きましょうか。私たちは何をすればいいの」
 少し浮かれ気味にそう問うた。

「……おぉ……」
「……うぇ……」
 ドラゴンの死角から忍び寄り、その巨大さを初めて目の当たりにしたクィディッチ選抜の二人は思わず感嘆の声を漏らした。
「じゃあ。私が下に降りたら、作戦開始ね」
 その二人とは対照的に、マーズは目を爛々と輝かせる。
「あの大トカゲに喧嘩を買わせればいいんでしょ。任せて頂戴」
 そしてヴィーナスの足を軽く蹴とばし、
「あいたっ!?」
「腑抜けたことやったら承知しないから」
 ちゃんとやるのよ、と念押しして箒から飛び降りた。
 長い黒髪が宙を舞う。
「『上昇せよアセンディオ
 彼女が呪文を唱えると、自由落下のスピードが急激に緩んだ。あわや地面に激突、というところで身体が浮き上がり、ふわりと地面に降り立つ。
「なんか、すげぇやる気だな」
「……」
 やる気満々のマーズとは対照的に、ヴィーナスは浮かない顔をしている。尤も、魔法学校の四年生が、たった四人でドラゴン退治をやれ、と言われたなら、普通は泣いて嫌がってもおかしくない。
「ミス・クロム、」
「ヴィーナスでいいわ」
 マーキュリーの呼びかけに、ヴィーナスは溜息混じりで答える。
「あたしも優等生ちゃんって言うのやめるから」
「……これは、私が教えた、ってことは内緒にして欲しいのだけれど」
 そう前置きをして、マーキュリーは先刻マーズから聞いたことを話した。マーズが今日のユニコーン観察会を楽しみにしていたこと、それをドラゴンに台無しにされて怒り心頭なこと、ドラゴンがこの森に居座っている限り次の観察会は開かれないだろうと腹立たしげに語っていたこと。
「――そういう訳だから。ドラゴンが退治できてユニコーンの観察会が開かれた暁には、貴女も参加するといいわ。たぶん彼女、もの凄くご機嫌だと思うから」
「……貴女って」
 ヴィーナスは目を二、三度しばたたかせ、
「ほんと、人をその気にさせるのが上手いわね。そんな話聞いちゃったら、頑張るしかないじゃない」
 そう言って苦笑した。
「じゃあ、私達も準備しましょう」
 ヴィーナスがやっと乗り気になったのを見て、マーキュリーはぽん、と手を叩きそう言った。
「私は後ろに乗せて貰えばいいかしら」
「あ。それ、やめた方がいいと思うわよ」
 そう言ってジュピターの後ろに回ろうとするマーキュリーを、ヴィーナスが制止する。
「特にジュピターの後ろは、ゴリラ並みの腕力ないと絶対振り落とされるから。座るなら前でなきゃ、杖持って魔法使うなんてムリムリ」
「ゴリ……」
「あんたのこと言ってんじゃないわよ」
「わかってるよ。……ところで、前に乗せる、ってどうやんの?」
 苦笑混じりに応えたジュピターは、そう言ってお手上げ、という風に両手を上げた。
「え? あー、そっか、OKOK。じゃあまずマーキュリー、柄に跨がったら思いっきり後ろに下がって……もっと、背中ぴったりくっつけて……そうそう」
 ヴィーナスは頓狂とんきょうな声を上げ、頷きながら何やら独りごちてから、てきぱきと指示を始めた。
「んでジュピター、彼女の肩越しに手を前に出して、その手で柄を握って」
 ジュピターの両腕が、丁度ジェットコースターの安全バーのようにマーキュリーの身体を押さえ込む。
「これ結構……つか、かなり窮屈じゃないか?」
「窮屈じゃなきゃ落ちるって」
 言われる通りにしながら躊躇うジュピターに、ヴィーナスが天才シーカーの俊敏さで突っ込む。
「窮屈……だけど、大丈夫。呪文はちゃんと唱えられそうよ」
「そうかい?」
 マーキュリーがいいならいいけど、と、囁くようにジュピター。
「いいなー。あたしもマーズちゃんとそんな風にいちゃいちゃしたーい」
「えっ」
「いやお前がこうしろっつったんじゃん」
 冷やかすヴィーナスに、すかさずジュピターが突っ込む。マーキュリーの顔がどれだけ赤くなっているかは、彼女には見えない。
「や、マジな話、これ魔法界で親子とかが二人乗りする時のやり方なのよ。これなら前に座ってる方は手放しできるから杖だって持てるし、まず落ちたりしないから……ほらほら、始まったわよ」
 ヴィーナスの一言で、二人が同時に地上へ視線を落とす。
 戦いの火蓋が切って落とされ、緩みきっていた場の空気が一気に引き締まった。


 竜の前に、道はない。
 森の木々をへし折り、薙ぎ倒し、竜の歩いたその後ろに、道ができる。
 マーズはドラゴンの背中に向かって静かに象牙色の杖を掲げ、
「『落ちよディセンド』」
 ぼそり、と呟いた。
  どすんっっ!
 次の瞬間、のし歩いていた竜の巨体が突然地面に倒れ伏す。
「さっきの続きよ。遊びましょう、大トカゲさん」
 ドラゴンはゆっくりと起きあがると、後ろを振り返り、自分に魔法をかけた人間の姿を捉えた。
「『充血と痛みをコンジャンクティヴァイタス』!」
  ぎゃおぉぉぉぉんっっっっ!
 出会い頭にまた魔法を食らい、金切り声を上げながら、左目を閉じ、苦悶するように乱暴に首を振るドラゴン。俗に「結膜炎の呪い」と呼ばれる魔法である。マーズが片目だけに術をかけたのは、ドラゴンの注意を自分に向けるためだ。
「『盾よプロテゴ』」
 ばごおぉぉんっっ!
 不可視の盾に、横に薙ぐ尾の一撃。周囲の空気がびりびりと震える。
 マーズはドラゴンを睨み返した。
「『炎の槍イグニス・テラム』!」
 彼女の「力あることば」に応え、象牙色の杖から炎が激しく迸る。他の物であれば残らず焼き尽くしたであろう強力な炎だが、竜の鱗には傷どころか焦げ痕一つ残すことはできない。
「ドラゴンならドラゴンらしく、ブレスで私を灼いてみなさい。できるものならね!」
 だが、この竜を挑発するにはそれで十分だった。ドラゴンは人語を解するのか、それは未だ専門家の間でも意見が分かれるところだが、これだけ真っ向から喧嘩を売られて買わないドラゴンはいないだろう。彼等は基本的に頑強で、凶暴で、そして気位の高い生き物である。
  きしゃあぁぁぁぁぁっっっ!
 ドラゴンはダメージを受けていない右目でマーズを睨みつけると、一声上げて天を振り仰いだ。ドラゴンは――少なくともこの個体は――ブレスを吐く予備動作として、上を向いて大口を開ける。
  しゅごおぉぉぉぉぉぉっっ!
 そうして放たれた灼熱のブレスはしかし、マーズの魔法盾に弾かれ、周囲の植物を手当たり次第に焼き払った。枯れ葉の燃える匂いと生木の焼ける匂いが混じり合い、辺りに立ちこめる。


「うへぇ」
 『グリフィンドールの魔王』の人間離れした戦いぶりを初めて目にしたジュピターは、ドン引きしていた。
「もうあいつ一人でドラゴン倒せそうじゃね?」
「そうね、と言いたいところだけど。いくら彼女でも、あの鱗を通してダメージを与えるのは無理でしょうね……じゃあ」
 くすくすと笑いながら応えるマーキュリーの声音が、不意に真剣味を帯びた。
「打ち合わせ通り。あともう一度タイミングを計ったら、その次仕掛けるわ」
「わかった」
「おっけ」

 

「『盾よプロテゴ』」
 ドラゴンの二度目のブレスを弾くと、マーズは深い呼吸を一つし、これまでよりも念入りに、丹念に魔力を練り上げた。
「『炎のイグニス――』」
 身体から溢れ出した魔力が陽炎のように揺らめき、彼女の長い黒髪を踊らせる。
「『――竜巻テンペスタス』!」
  ごぶごぼぉっっっ!
 音も、勢いも、先刻までとは比べものにならない炎の奔流。燃えさかる火が渦を巻き、ドラゴンの身体を包み込んだ。
  うおぉぉぉぉぉおんっっ!
 竜は翼を大きく羽撃かせてその身にまとわりつく炎を振り払うと、怒り心頭といった風に一際強く鳴いた。
「今よ!」
 マーキュリーの合図で、箒の二人が動いた。
 ジュピターが一気に加速する。離れた位置から、一気に竜の真上へ。
「っ!」
 猛烈な慣性力Gを正面から受け、マーキュリーは息を詰まらせた。もし後ろに乗っていたなら、間違いなく振り落とされていただろう。ヴィーナスの言う通り、それこそゴリラででもなければとても掴まっていられない。まして、片手を離して杖を握るなど。
「ここだ!」
 ジュピターの声で、我に返る。眼下にはドラゴンの口が、火山の火口のように開いていた。
「『水よアグアメンティ』!」
 マーキュリーの、渾身の呪文。生み出された水は中空で巨大な球を成す。
「っ、」
 水の球が彼女の手を離れ、竜の口の中へ向かって落ち始めるのと同時に、再びジュピターが加速した。
「さーん!」
 ヴィーナスの、よく通るソプラノ。
「にー!」
 ジュピターが急旋回、さらに加速。最新型のジェットコースターでもここまで荒くない。
「いーち!」
 箒の柄を勢いよく上に向け、足の方からドラゴンめがけて突っ込み、
「おりゃぁぁっっっ!」
「でぇーーーいっ!」
 ジュピターがドラゴンの上顎を、ヴィーナスが下顎を。箒で飛び回る勢いそのままに、全力で蹴りつけた。
 がちん、と牙の激しくぶつかる音がして、ドラゴンの口が閉じる。
「『縛れインカーセラス』!」
 間髪入れず、マーキュリーの魔法。虚空からロープが現れ、閉じたドラゴンの口をぐるぐる巻きに縛り上げる。
「『閉じよコロポータス』!」
 箒に乗った三人が逃げると同時に、だめ押しのマーズの呪文。ドラゴンの口から、ぐしゃり、と妙な音がした。この呪文に特徴的な音で、それはつまり魔法が効力を発揮したことを意味する。
 次の瞬間。

 ぼすっ!

 ドラゴンの身体から、籠もった鈍い音がした。鱗に覆われた腹が一瞬大きく膨れ、鼻の穴、目、耳――頭部に開いた穴という穴から白い煙が勢いよく吹き出す。マーキュリーの放った大量の水が、ドラゴンの体内で生成された高温のブレスと出会い、水蒸気爆発を起こしたのだ。
 トカゲなどの爬虫類――ドラゴンとよく似た非魔法生物――は、噛む力、つまり口を閉じる力に比べ、口を開く力は格段に弱い。ドラゴンも同様で、単純に力の強さだけでいえば人の身でもドラゴンの口を閉じさせ封じることは十分に可能だ。そうして行き場をなくした水蒸気の急激な膨張は、ドラゴンに体の内側からダメージを与える。
 やがてドラゴンの巨体がぐらりと揺れ、轟音と地響きとともに地面に崩れ落ちた。
 ジュピターとヴィーナスは倒れたドラゴンの上をゆっくりと旋回しながら、クィディッチ選手らしく互いに拳を突き合わせ、地上に降りてくる。マーズは腰に手を当て、白い杖でとんとんと手のひらを叩きながら、満足げな笑みを浮かべた。
 唯一、マーキュリーだけが、箒を降りた途端に、喜びを表現することもなく青い顔で地面へ這いつくばる。
「マーキュリー!?」
「……大丈夫、ちょっと酔っただけ……」
 やっとのことで応えるマーキュリー。事は概ね想定通りに運んだが、クィディッチのトップ選手の箒に同乗するとはどういうことか、という点だけは想定外だったようだ。
「あの」
 ジュピターに背中を撫でられる彼女に、マーズが申し訳なさそうに声を掛けた。
「ごめんなさい。貴女のローブ、燃やしてしまったみたい……まあ、私のも燃えたんだけど」
 そう言う彼女の手には、焦げた小さな布切れが握られていた。辛うじて、青い裏地が見て取れる。
「大丈夫……ドラゴンの素材が売れれば十枚でも二十枚でも買えるから」
 必要経費よ、と、マーキュリーは弱々しく微笑んだ。
「あれ?」
 倒れたドラゴンを物珍しげに触ったり眺めたりしていたヴィーナスが、何かに気付いたように声を上げた。
「このドラゴン、目玉がないよ」
「えっ!?」
 その一言に、マーキュリーが突然正気に戻ったように飛び起きた。見れば確かに、本来眼球が収まっているべき場所がぽっかりと空いている。
「なぜ」
 彼女の脳内で、先刻までの戦いの様子が再生される。ドラゴンの口を封じ、体内で水蒸気爆発を起こさせ。頭部の穴という穴から蒸気が――
「……蒸気の圧力で飛び出したんだわ……」
 そう呟いて頭を抱えたのも束の間、
「きっと近くに落ちている筈よ。探しましょう!」
 力強くそう叫んだ。
「えっ」?
「うぇ」
「マジか」
 ドン引く三人。
「ドラゴンの眼球は、魔法薬の高級素材よ。とびきり高値がつくわ」
「よーしあたしに任せな!」
 マーキュリーの言葉に、ジュピターがローブを翻して箒に飛び乗る。
「……バカね。そんなことしなくても」
 マーズは溜息混じりにそう言って、虚ろになったドラゴンの眼窩に杖を向けた。
「『元に戻れレベルテ』」
 彼女の呪文に応えるように、少し離れた木立の中から何かが空に向かって勢いよく飛び上がる。
「おわあぁぁぁぁっっっ!?」
 高速で飛来する巨大な目玉に睨まれ、ジュピターは空中で文字通りひっくり返った。


 その後。
 箒に乗ってドラゴン退治に駆けつけたホグワーツ教師の精鋭部隊を相手にシビアな価格交渉を繰り広げ、納得の金額を取りつけた四人は、意気揚々と帰途についた。
 そして、この一件から当分の間、彼女達は「ドラゴンスレイヤー」として学園の噂の的となるのであった。

§6 Slayers! ――Fin.

  


(^^) よろしければ、感想をお聞かせ下さい。(^^)

↓こちらのボタンで、メールフォームが開きます↓
メールフォーム


ホグワーツ城へ戻る