スナオナキモチ

飛鳥 圭

 

 初めて出会った時の彼女の印象は、どこかクールで神秘的な雰囲気を持った、思わず見惚れそうになるくらいの美少女。
 悪いけど、うさぎの友達にこんなタイプの娘が居る事も驚いた。

 で、次の印象が・・・『可愛くねーっ!』・・・・・・だった。

 

「や。」
「・・・まこと?」
 火川神社の鳥居を笑顔で入ってくる人物に、巫女装束で一人境内の掃除をしていたレイは、不思議そうな視線を向けた。
「どうしたの?今日は集合予定、無かったハズだけど・・・」
「うん。だからヒマなんで遊びに来た。」
 相変わらず笑顔のまま説明するまことに、少し呆れた顔をするレイ。でも、追い返す気は無いらしい。
「・・・で?ここに来たって何にも無いわよ。」
 手にした箒にもたれ掛かる様な仕草で、問い掛ける。
 しかし、まことはその問いには答えず、きょろきょろと辺りを見回すと、口を開いた。
「もしかしてこの境内全部、レイ一人で掃除してんの?」
「え?そうよ。当たり前でしょ。」
 まことの言葉の意味が読み取れず、少し怪訝な顔をするレイ。
「じゃあ、あたしも掃除手伝うよ。」
「は?」
「二人でやれば、早いじゃん。箒どこ?」
「まこと!勝手な真似しないで。」
 その言葉に驚いたまことの瞳が、レイを見つめる。
「・・・あ、掃除も私の仕事だから・・・」
 少し視線を逸らしながら、言い訳の様な説明をする。
「ごめん。あたしも出しゃばり過ぎた。」
 二人の間に流れる一瞬の沈黙。

 でも怒りは、無い。

 この前までは、レイのやる事成す事勘に触っていたのに。
 人の心は分からないものだ。と、まことは思う。

 心変わりの理由は、簡単。
 この間、レイの過去と、心の傷を知ったから。
 父親に恐れられ氷川神社に預けられた。と、言っていた彼女。小さな頃、事故で両親を亡くしたまことにとっての『親』は、確かに一人取り残された悲しみはあるが、今も大切な存在である事には変わりない。

 しかし、レイの心は今も傷付けられている。それも、実の父親に。
 それを知ってから、レイの事が気になる存在になり始めた。

「・・・まこと?」
 黙りこくってしまったまことに、レイが声を掛ける。
「あ、ごめん。何でも無い。」
「・・・そう?」
 頬に掛かる髪を掻き揚げながら、まことを見詰める。
 どきり。
 やっぱり、綺麗だと思う。制服も、巫女装束も、よく似合って、・・・あれ?
「そーいやさ、レイの普段着ってパンツ多いよね。」
 思い出した様に、まことが口を開く。しかも、黒系の落ち着いた色合い。
「その方が動きやすいでしょ。特に今はね。」
 突然の話題転換に、おかしな顔をしたレイだが、答えてくれる。
「ま、それはそうなんだけどさ。」
 もったいないな。と、まことは思う。ホテルで出逢った時のレイの姿が思い浮かんだ。
 アップにされた髪も、淡いベージュで揃えられた洋服も、何時ものレイとは違って・・・
「たまにはスカート姿も見てみたいな。この間のレイ、すごく可愛かったし。」
「あんなの私じゃないわ。」
 不機嫌な口調で反論してみるが、
「そうかな?結構似合ってたと思うけど。」
 勿体無い。と顔に書いてあるまことに毒気も抜ける。
「・・・第一、誰の為に着るのよ。そんな相手もう居ないのに。」
 溜め息交じりのレイのその台詞に、もう二度と父親と会わない決意を感じた。
「じゃあさ、あたしの為・・・ってのはどう?」
 思いもよらないまことの提案に、レイの瞳に驚きが浮かんだが、その視線はゆっくりと逸らされ、やがてまことに背を向けた。
『・・・やっぱ、ダメか・・・』
 心の中の呟きが、溜め息に変わる頃、
「・・・・気が向いたらね。・・・」
 聞き逃しそうな位の、小さな返事。
「うん。」

 

  とくん。

 背中を向けていても、手に取るように分かるまことの笑顔に、何故だか胸が高鳴る。
「あれ?レイ、どこ行くの?」
 朱に染まった表情を見られない様に背を向けたまま、去ろうとするレイにまことが声をかける。
「・・・掃除、手伝ってくれるんでしょ。二人で引っ付いていたって、はかどらないじゃない。」
「ああ、そだね。で、箒は?」
 まことの問い掛けに応える様に、レイの手の中の箒が彼女に向かって放られた。
「自分で言ったんだから、サボリ厳禁よ。」
「はーい。」
 どこか呑気な返事が境内の反対側へと消えていった。

  

「・・・・・・ったく。」
 境内の隅の方で、楽しげに落ち葉を掃くまことを視界の端に捕らえながら、レイは小さな溜め息を付いた。
『何で、あんなに嬉しそうなのよ?』
 普段は勘の良いレイだが、いくら考えても分からない。それでも、

 まことから、目が離せない。

 こんな気持ちは、そう、他人がこんなに気になるなんて・・・
 と、こちらの視線に気付いたのか、極上の笑みを浮かべたまことがひらひらと手を振った。
 つられて手を上げたレイだが、はっと我に返る。

 何だか、まことに振り回されてる様で、癪に触る。・・・でも・・・

 楽しげに掃除を続ける、まことの横顔を見ながら、
『たまには、いいか。』
 そう思う事にした。

---了

◆    ◇    ◆

久しぶりに8話を見たら、またハマった(笑)

(UP:05/05/04)