† 月に還る者 †

飛鳥 圭

 

「人は、死んだら月に還るの。私は空の上からずっとレイの事を見守っているわ。」

 そう言って、母は笑った。
それは、私を悲しませない為の「嘘」だったのかもしれない。それでも、母の笑顔に私は幼心にその「言葉」を信じた。

 人はいつか、「月」に還るのだと・・・

「ふう・・・」
 もう、何度目かの溜め息。その原因はルナから聞かされた自分達の過去・・・

 私達の捜すプリンセスは「月の王女」。
 そして私達はプリンセスを護る月王国の戦士。

「・・・・・・・」
 部屋の中、レイは独りで月を見上げていた。さっきから思考をまとめる事も出来ない。
 今までの人生全てを否定された様で、そのくせ、ずっと待ち続けていた答えを漸く見つけた様なもどかしさ。
 うさぎの様に素直に受け入れる事も、泣く事も出来ない。だが、心の奥底では既に「それ」を認め受け入れている自分が居る。
 どうしようもない矛盾が、体中を駆け巡る。と、その時、
「レイ、風呂空いたぞ。」
 祖父の間の抜けた声。
「・・・・・・・はーい・・・」
 その声に、取り敢えずは気分転換をする事に決めた。
 着替えを持って風呂場に向かう。障子の開いたままの一室では、浴衣姿の祖父が見るでもないテレビを点け、一人晩酌を始めていた。この広い家に二人きりは寂しいだろうと、テレビのスイッチを入れる祖父に文句は言えない。
 ふと、聴き慣れたメロディーが耳に入った。
「・・・愛野美奈子か・・・。」
 テレビ画面の中、笑顔で歌い続ける彼女の姿にレイは視線を向ける。相変わらずアイドルには興味は無く、愛野美奈子以外は区別もつかない。その為か、
「貴女がプリンセスだったら、うさぎが喜ぶのにね・・・」
 思わず口にした在り得ない可能性と、うさぎへの甘さに苦笑が浮かぶ。
「どうした?レイ。」
 珍しくテレビに見入っているレイに問い掛けて来る祖父に、なんでも無いと答えその場を離れた。

 どうかしている。これも『月』の影響なのか?

 だが、レイ自身気が付いていない。
 それは、『予知』であり、後日、彼女に出逢う事になろうとは。

 今はただ、月の呪縛を感じながらも、先の読めない未来に立ち向う事だけがレイに、いや、戦士達に出来る事だと。

 そう、信じて・・・

---了

 

◆    ◇    ◆

実写版10話以降
美奈子―っ!早く出て来てくれ話

(UP:12/27/03)