おニャン子クラブな12のお題8. ワンサイド・ゲームういろう「喧嘩なんて珍しいわね」 「まだ喧嘩してたの??」 「もういい加減折れてあげたら…?」 レイちゃんの言葉は会うたびに、呆れが強くなって… 私も…私だって… 何故あんなに怒っていたのか分からない…。 けど…引きたくない。 私、まだきっと怒ってる…。 それにまこちゃん…まこちゃんに------。 カラリと軽い音がして喫茶店のドアが開く。 ドアを背にして座っている私がそれと気づく訳がないのに、 気づいてしまったことが何か恨めしい…。 まこちゃんよね…。 考えてみればうさぎちゃんやレイちゃん達を交えずに、 会うのは久しぶりなのに、顔すら向けられない自分が悔しい。 向けたら負けのような気がするの…。 こんなに自分が意地っ張りなんて思っていなかったけど、 そうさせたのはあなたでしょう? …なんて、勝手に当てこすりしてみたりして…。 同じテーブルに座ってくる訳はないと思っていたけど、 隣ですらないなんて… 少し離れた斜めの席------;。 見えそうで見えない位置に座るのは…あなたの計算? すごく…意地悪だわ…。 口をついて出てくる何かを抑えるために、紅茶を口に含む。 紅茶の熱さに口内を火傷して、ずきずきと頭に響く痛みに、 お勉強も忘れて、怒りがこみ上げてくる。 私、何、言おうとしてた? そんな遠くに座らないで…! 私のこと見ない振りしないで!! それが私の本心…? どんなに虚勢を張ったところで、 まこちゃんを前にしたらあっという間に本心が覗けてしまう…。 なんで私はこんなにあなたに弱いんだろう… 悔しいくらいに…! どうしてこんなに淋しいのに、 こんなに切なくて、あなたが恋しいのに… あなたに声かけることすら叶わないんだろう------ いつもどおり落ち着き払って紅茶を頼むあなたの声に、 軽い苛立ちと敗北の予感を感じながら、もう一度紅茶を口に含む。 今度は火傷なんかしない。 けれど------ 「喧嘩してる間にまこちゃん、 新しい想い人つくっちゃうかもよぉ?」 美奈子ちゃんの言葉が頭の中に響き渡る。 もう数学の公式など目ですら追うことができない。 落ち着き払ってるまこちゃんと、私には差がありすぎて… もう、取り返せない……。 だって、ついさっきまでは予感だけだったのに、 今はしっかり感じている…私の負けだと------。 まこちゃんがここに来るまでは、負けなんて考えてなかったのに……。 ねぇ…あなたが店員と話してるだけで、 私がその店員に嫉妬してしまう私を知っててここへ来た? たとえその会話がただの注文でも… 今の私の心をざわつかせるには充分------ 分かったわ…認める。 私の負け…------。 始まる前から分かってたのかも…。 あなたには敵わない… バックからコインを取り出すと、 やっぱり少し悔しさがこみ上げる。 でも…もう、強がってなんかいられない。 意地なんか張っていられないの。 喫茶店を出て、 すぐ前の公衆電話から喫茶店の番号をプッシュする。 覚え違いをしてればいいのに…なんて、 やっぱり少し意地が残っている私に反して、喫茶店へ電話線は繋がる。 店員を通じて彼女へ… 「私に?…誰だって言ってました?」 受話器の奥から聞こえる怪訝そうな声に、 素直に反応する自分も、もう気にならない。 「もしもし?どなたですか?」 耳元で響く懐かしい声に意地も忘れてしまう。 あなたには敵わない…私の心が認めてしまった。 「……私…」 「……もしかして… 亜美ちゃん??」 驚いた声に振り返ると、ガラス越しに目が合う。 遠めでも分かる綺麗な緑色の瞳の懐かしさに言葉がつまる。 気づけば受話器を置いていた。 ゆっくり一歩一歩近づいていくと、 まこちゃんも近づいてくれて… ガラス越しに…それでも久しぶりの接近------ ご め ん な さ い … きっと…ガラスと騒音に遮られて、言葉は届かなかった… けれど…まこちゃんに届いてると信じられる。 帰りはまた一緒に歩けると、信じられるの… あなたに敵わなくたって…別にいい… そう…思ってしまう自分を少しだけ意識した喧嘩の終わり------。 ワンサイド・ゲーム:終 |